Chantilly(シャンティイ)城館
ぼくが実際に知っている範囲で最も美しいと思えるフランスの城館が、二つある。
その一つが、Château de Chantillyで、もう一つはChâteau de Pierrefonds。
四半世紀来のお気に入りだ。
なのに、この二年間で、Château de Pierrefondsには何回か来訪者をご案内できたものの、Chantillyは一度外から見ただけ。
てなことで久方ぶりに訪れてみた。
パリから北部方向へ五十キロで、車なら一時間。電車なら半時間程度で行けるらしいが、電車で行ったことはない。
何度見ても美しい。惚れ惚れする。
周囲を堀に囲まれ、あたかも池に浮かぶ城館といった趣。
ここを根城としたのは紀元前ガロ・ロマン時代に遡るらしいが、フランス革命やら何やかやで壊されては修復しの繰り返し。今の館は、日本で言えば幕末辺りに再建されたものらしい。
少しばかり緩い坂道を上っていくと、ほどなく正面入り口に至る。
一番上の写真は城館の入り口から見た光景だが、一旦門をくぐって庭の方へ回ると、こんな風に見える。
池には白鳥がいて、これを一緒に収めたならもっと格好いい写真になってたんだけど。
起源をガロ・ロマン時代に遡る城ではあるけれど、17世紀半ばに大コンデ公がシャンティイー城大改造 に着手。後にヴェルサイユをも手がけるル・ノートルに造園を託したとか。
このフランス式庭園はつまらなかったんで写真はパスするけど、人工的シンメトリーの庭の奥の方に運河を施すといった、ヴェルサイユ宮の庭園の一番原初的な形。(ヴォ・ル・ヴィコントも全く同じ形式を踏襲してる)。
んで、太陽王ルイ14世が
「あんたん所にちょっと行ってみようかね」
と、そういう風に言ったのかどうかは知らんけど、とにかく絶対権力の王様が御幸なさるというので、大コンテ公は張り切って、莫大な借金をものともせず饗宴を準備したそうな。
その饗宴一切を任されたのがフランソワ・ヴァテールなるお方で、当時料理人の鏡とよばれたらしいが、creme Chantillyは彼の創作。生クリームの代わりにメレンゲを使ったんだとか。
中に入れば、これは城館と言うより、もはや美術館。
入り口の案内で聞いてみたら、フラッシュさえ焚かなければ内部の写真撮影はOKとのこと。脚立を構えて熱心に写真撮影しているおねえちゃんがいた。
オマール公アンリオルレアンなるお方が1846年に本館の再建に取り組んだけど、その後20年ばかし亡命生活を余儀なくされ、それでもその間に美術品収集を怠らなかったというところが、凄い。1871年に帰国を許され、それらの収集品をこの城館に展示した。
遺言書に、これらのコレクションを外部に貸与しちゃダメ、展示方法を変更しちゃダメと書かれていたので、これらの絵画はその当時のまま展示されてるのだとか。
無造作に展示されてる美術品、その数たるや半端じゃない。
公式HPによると、絵画点数は一千、デッサンと版画は二千五百、蔵書三万点だとか。
この書斎、写真では分かりにくいが、右側にも同じような本棚があり、もう目も眩むような書籍の数。
四半世紀前に初めてこの書庫を見た時、溜息が出た。
全部読めなくてもいい、これだけの書籍に囲まれる生活の羨ましさといったら。
この館にはかつて陶磁器工場もあり、「柿右衛門の赤」も見事に再現している。中国や日本の陶磁器の完全コピーが目的だったらしい。
文化の発展というものには、このような「旦那」が必要なのだ。
この城館を賞賛しているくせに、実はこれまで庭園を散策したことはなかった。庭なんか見たってしようがないだろう、って思ったのは、若気の至りだったんだろう。
だから、庭は今回が初めて。
フランス式庭園の方はちょっと眺めただけで、英国風庭園の方へ。
紅葉が美しい。一番良い季節に来たのかもしれない。
アカシアの 金と赤とが 散るぞえな ・・・
なんて詩の一節をふと思い出してしまう。中学生の時分に読んだ北原白秋だが、我ながら良く覚えているもんだ。
「かはたれ」という言葉は、この詩で覚えた。もっとも、以来、この単語にお目に掛かったことはないのだが。
日没に近い秋の光の中で、昨日の雨でいくらか足下の悪い中、ゆっくりゆっくり歩きながら、ベビーカー連れの家族を遠目に見て思わず笑みがこぼれた自分をふと顧み、そんな心情はやっぱり年輪のせいなのか、いや、お陰なのかと考えてしまうのは、埒もないこと。
この庭園、「愛の島」と名付けられた場所がある。行ってみたら、こんな像があった。
彫刻像にくっついているのはマロニエの葉。
誰かが親切にも、イチジクの葉の代わりに付けてあげたんだろうが、ずれてしまってるので、なんだか却って強調しているような・・・
この彫刻の向かい、写真を撮ったぼくの背中の方向に、ヴィーナスの彫像がある。
すぐ近くに大きな厩舎と、広い競馬場があるけど、今回は行かなかった。
この城館、好きな人ならたっぷり半日は過ごせる場所だと思う。
入場料の12ユーロは、高くはない。トイレもきれいだったしね。
また来よう。