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2012年1月19日 (木)

哀愁のパリに霧が降るのだ

 タイトルは、椎名誠の本のパクリ。

 今日、夕刻になって霧雨が降り出した。

 「降る」という表現が正しいのか、霧のしずくが漂っていると表現すべきなのかどうか。

 やっとパリの冬らしい気候になってきた。

 三日ほど前までは青空が見えて、日中は14℃前後の日が続いていたが、昨日も今日も、郊外では朝の気温が3℃を切った。

 朝の3℃前後より、今日の日中7℃の方が寒く感じられたのは、取り立てて奇妙なことでもない。そういう経験は何度もしてきた。

 その寒く感じられる中を、昼食をとりに、しばらくご無沙汰してた店へ行った。この店の「定番昼食」は、前菜、主菜、デザートともそれぞれ三種類しか無く(ア・ラ・カルト=一品料理は勿論別途あるが)、足が遠のいていた。今日はそれでもいいかと思って扉を開けた。

 「定番昼食」に「plat du jour=本日のお料理」が追加されていた。ああ、これならいつも違った料理が食えるんだと嬉しくなった。説明を聞いてもどうせ分からんから、「全部『本日の』にして」とオーダーした。

 出てきた料理は正直言って、不味くはないが取り立てて美味しいとも思えなかった。なんだか、どこにでもあるような味だった。

 毎日料理を変えるというのは、食堂にとってとんでもない賭である。食材は当然見込みで仕入れる。けど、それが見込み通り捌けなかったら…

 解決方法は、ある。この店も、ひょっとしたらそっちの方向へ走ってるんだろうか、と一抹の不安と共に、少し哀しくなった。

 一人で飯食ってる最中にその店のおばちゃんが、紙とボールペンを持ってぼくのテーブルに来た。

 四月下旬にこの店を改装して五月初旬に新規オープンする。新規開店祝いに、贔屓にして頂いているあなたを招待したいから、e-mailアドレスをくれという。

 ぼくはこの店の、昔風の造りが大好きだったのだが、現代風に変えてしまうんだろうか。それならば寂しいことだ。

 が、何も尋ねなかった。その新規開店祝いの時期にぼくがまだここに居るかどうか。

 事務所へ戻って、歯に挟まった昼飯の豚肉の筋を背中丸めてシーシー言わせながら取り除く。初老のオトコが一人でそんなことをしてる。

 これも哀愁というヤツであろうなぁ。

 その最中、口の中にぽろりと落ちたものがあった。
 銀色に光っている。

 これ、虫歯治療のアマルガムじゃないか!

 二ヶ月ほど前から歯の一部が欠けてたことは認識してたんだけど、遂に来たか。

 観念して歯医者に予約を申し込んだら、「来週木曜の午前八時に来て下さい」だと。

 いや、ちょっと、ね、応急手当だけでもして欲しいんだけどと言うと、予約は満杯ですと、にべもなく断られた。

 さよか、と、悄然として受話器を置いた。

 そして夕刻、霧に煙る高速道路のオレンジのナトリウム灯とパリの街灯をやり過ごし、アパートに戻った。

 さてこれから一週間、どんな飯を食うべえと思案しているぼくとは無関係に、窓の外ではしずしずと霧が充満している。

 ほんの小さな哀しみが積み重なった一日。

 

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