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2012年7月23日 (月)

書籍の行方

 フランスで買う本は高い。

 何となく、の感覚だけど、日本に比べて五割増しから二倍くらいの感じがする。

 ちょっと考えてみれば当たり前だ。フランスの人口は日本の半分程度なのだから、同じ割合だけ本が売れるとしても、販売数量は日本の半分ということになり、一冊あたりのコストはそれだけ割高になる。

 本を出版するというのは、結構難儀な作業なのだ。版を作って輪転機にかけ、製本した後は嵩張る在庫の維持。

 初期投資が高額な上、日本の書籍販売方式は富山の薬売りみたいなもので、書店は売れ残った本を出版社に返品するのが、一部の例外を除き一般的なものだから、本の出版という商売もなかなかリスキーなのだ。

 そんな状況を、昨今脚光を浴び始めた電子書籍というものが塗り替えていくのかどうか。

 昔々、宇宙大作戦というアメリカのTVドラマがあり、その中で、今のSDカードより二回りほど大きいカードの中に膨大な文書が記録されているという設定になっていた。

 そのドラマが作られたのは半世紀ほども前で、まだパソコンなんてものは夢の世界でしかなかった頃だが、あんなものがあったらどれほど良かろうかとぼんやり考えていた。

 まさか自分が生きている間にそのような世界が到来するなんて、露程も思ってなかった。

 さて、いざそれを現実に目の前にすると、いや、iーPadのことなのだが、どういうものか、これが実に味気ない。

 中に詰まっている文字はペーパーのものと同じなのではあるが、どうにも愛着が湧かないのである。

 若かりし頃、今では大きな書店でもあまりお目に掛からなくなってしまった函入りの立派な装丁の本を分不相応にも買い求めようものなら、装丁保護のために掛けられているパラフィン紙を破かぬようにそっと函から出し、読み終えたらそのパラフィン紙が皺にならないよう最大限の注意を払いつつ、苦労しながらその本を函に戻したものである。

 言うなれば、新車を買って、シートなんかを保護してあるビニールを外さず、そのまま車を運転してるみたいなもんだった。

 車のビニールシートと異なるのは、時々そのパラフィン紙をそっと外し、本来の装丁をしばし眺めて悦にいる時間を持てたということ。

 凝った本ほど大きさがまちまちで、本棚に並べる時に、本の背丈の順に並べるべきか内容別に並べるべきか、いつもおおいに迷ったものである。

 電子書籍はとても手軽で、置き場所に困ることもない。あの本は、たしかこの本棚のこの辺りに置いたはずだと探すこともなくなる。

 書籍をツールとしている生業の方々には間違いなく朗報なのだろうが、ぼくには、本への愛着が薄れていくような気がしてならない。

 材質を含めた装丁のデザイン職人の職場が失われていくのは、なんともやりきれない気持ちになる。

 それはおまえが本フェチだからだと言われれば、実際その通りなんだけど。

 でも、手軽になるほどに使い捨てになり、供給側は大量に使い捨てする奴らをターゲットにしたものをメインに供給するという現象をぼくらは嫌というほど見てきた。

 書籍も同じ運命を辿っていくのだろうか。

 そんな筈はあるまい。本というのは知識の倉庫なのだよ。使い捨てになんかなってたまるものか。

 むしろ、内容の質は高いのに大量に売れる見込みが無くて絶版になってしまう書籍が救われる可能性の方が高いのではないか。
 そうあってほしい。

 自分の日常生活はと言えば、いいかげんに押し入れの中に閉じ込められたままの本を処分しなければと、えいやっと引っ張り出しつつ、ぼく以外の誰も触れたくもないように薄汚くなった本を手にとって、でも、これ、やっぱり、また読む「かも」しれないしなあ・・・とまた元に戻すという、これで幾度目の作業であろうか、そんなことを未だに繰り返している。

 だけど本当は、もう多分再読することはないだろうと薄々分かってはいるのに。

 それでも、マテリアルとしてのその本を手に取った時、内容は殆ど忘れているくせに、それを読んだ時びっくりしたとか感動したとか、ためになったという感覚だけは不思議と立ち上がってくるのだ。

 そして、ありがとうという気持ちが湧きだして、どうにも決別する決心が付かなくなる。

 若い時分にもっと盛大にオンナ遊びやってて、いっぱい別れを積み重ねる経験をしておいたなら、こんな優柔不断な人間にはなっていなかっただろうにと、方角違いに埒もないことを考えてしまう。

 

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