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2012年12月 9日 (日)

ノスタルジー

 もう古いもんを整理せないかんとは思いつつ、漸く今日になってビデオカセット、オーディオカセット、フロッピーディスクの処分を断行。

 手にとってしげしげと眺めると情が湧いてくるので、「全部捨てる!」と自分に言い聞かせて処分に取りかかりました。

 カセットテープの類は、ケースと紙と本体を分けてゴミ収集に出さねばなりません。

 パリでは、瓶類と生ゴミとその他を区別するだけで良かったのにと懐かしんでも仕方ない。せっせとカセットのケースを開けて三者分別。

 と、オーディオカセットからぽろりとこぼれ落ちた紙切れが。

 FM放送の番組表の切り抜き。

 そう、あの頃は、エアチェックというのが流行でした。

 気軽にレコードをバンバン買える時代ではなく、コレクションを目指すならその当時としては図抜けて素晴らしい音をラジオで提供してくれていたFM放送をテープレコーダで録音するというのが、(びんぼーにんの)音楽収拾の王道でした。

 何時からどういう音楽が放送されるか事細かに記載されているFMファンとか週間FMとか、FMレコパルなんて雑誌が庇を並べ、それらを定期購読しながら自分のお気に入りの曲を目を皿のようにして探してましたなぁ。

 あの頃のNHK・FMは、LP一枚丸ごと放送なんて、太っ腹なことをやってくれてましたっけ。

 タイマー留守録なんて便利な装置はなく、放送が始まる時刻にはラジオをつけてオーディオセットレコーダの前でスタン・バイ、お目当ての曲が放送される瞬間にレコードボタンを押し、カセットテープに録音する。

 大卒初任給が10万円に届かなかった当時の物価で、60分カセットが400円で「安い!」と言われてた時代ですから、できる限り無駄なくテープを使うために、アナウンサーの曲の紹介が終わってからどういうタイミングで録音ボタンを押すかが、ちょっとした個人的ノウハウ。

 コンマ何秒か録音ボタンを押すタイミングを逃し、曲のアタマが切れて絶望的な気分に陥ったことは二度や三度じゃない。

 今どきのハードディスク録音のように、余分目に録音しておいてあとから編集なんてのは想像もできない時代ですから、それこそ全身全霊を傾けてエア・チェック録音に臨んだものです。

 曲が始まるぞと録音ボタンを押したのに、それからまたアナウンサーが何か喋ったりすると、もう天を仰ぎたい気分でした。

 そういった不要部分を取り除くには、パソコン使ってマウスでちょちょいてなわけにはいかず、先ずねじ回しを使ってオーディオカセットを分解、テープを取り出して、およその目分量で不要な部分をはさみで切り、それから切ったテープをズレの無いよう最新の注意を払いながら繋ぎ合わせる。

 ぼくのような不器用者にはとんでもない難行苦行でありました。

 と、まあ、たった一枚のこぼれ落ちた切り抜きを見て、そんなことが走馬燈のように脳裏を駆け巡ったわけです。(ホントはもっともっと沢山のことが想起されたのだけれど)

 自分の若かりし時に、それなりに打ち込んできたもの。ぼくにとってその一つがオーディオ・カセットであった。

 でも、これらのカセットをもう一度聴くことは、おそらくないだろうな。

 そう思って一気に処分という英断に至ったわけだけど、ひょっとするとそれは間違いだったのかもしれない。

 これらのテープを捨て去ることは、ああ、あの頃はああいうこともあったなと若かりし日を想い出す縁(よすが)をも切り捨ててしまうことにも繋がるのです。

 決然と未来へのみ向かっていく若人達にはそのような感傷は無用であろうけど、自分が歩んでいく道巾がだんだんと狭くなっていくのを自覚する時期にさしかかると、どうしても後ろを振り向く機会が増えてくるのでしょう。

 人は死ぬ瞬間に、それまでの人生を走馬燈のように全て思い出すという話を聞いたことがあります。

 それがウソかマコトかは未だ死んだことがないので講釈できませんが、でも、今日のひとひらの紙の断片で似たような体験をした気がします。

 傍のものにはどんなに無価値でつまらないものと見えようと、本人には掛け替えのないモノというのは、確かに存在する。

 ぼくにとって、今日処分してしまったオーディオカセット以外にそういうものがもう一つあります。

 それは、コップ。

 三十年ほど前に初めてフランスに赴任して、一番最初に買ったのがワインの栓抜きと、コップでした。

 栓抜きはとっくに無くしてしまったけど、そのコップだけは今でもだいじにしています。

 露店市場で買った、何の変哲もないつまらない普通のコップ。

 でもこれを見る度に、あの心細かった、それでも未来への気概に満ちていた時期が瞬時に想い起こされてくるのです。

 

 

 

 

 

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