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2013年11月 5日 (火)

Un demi, s’il vous plaît

 三十年前初めてパリに足を踏み入れた時、とにかくこれだけは覚えておくヨロシと知人に教えてもらったフレーズが、”Un demi, s’il vous plaît ”だった。

 カフェでこの呪文を唱えさえすれば必ずビールにありつけんねんで、と。

 何で「un demi=半分」って言うの?と聞いたら、さぁー、そら知らんけど、とにかくビール飲めるんやからええやん、と軽く流された。

 エッフェル塔近くのカフェ。青空の広がる、五月の気持ちの良い日だった。
 

 その日、彼らと何を話したのか、そのカフェ以外にどこに行ったのかは何も覚えてないのに、その呪文だけはしっかりと脳みそに焼き付いた。

 この呪文は霊験あらたかだった。

 その後一人でカフェに入ったとき、おそるおそる初めて「アン・ドゥミ・シルヴプレ」と告げてみたら、魔法のように素早くビールが出てきた。その刹那、ぼくは天を仰ぎ彼らに深く感謝した。

 もうこれからは、あのヘンなコーヒーを無理矢理注文しなくてもいいんだ。

 それまではカフェで一休みしようと「un cafe」と頼むと、小さなカップに入った、舌のざらつくコーヒーにしかありつけず、なんで日本のようなコーヒーが出てけへんのやろかと訝っていた、初々しい時期だった。

 が、ある日、遂にこの呪文が通じない事態に遭遇した。

 入ったカフェでいつものように”un demi”と注文したら、「ウチにはpression、無いねんけど」と給仕が言う。

 狼狽した。

 何しろ本来の意味を知らぬまま使ってきた呪文である。

 pression、て、何だろ?

 体制を立て直し、あのね、わし、bièreが欲しいんだけど、と告げたら、今度はおっちゃん、いろんな固有名詞らしきものをずらずらと並べ立てる。

 そないにまくし立てられても聞き取りが出来ん。どうやらそれらはビールの銘柄であろうとかろうじて見当を付け、「フランス産のビールはどれやねん?」と聞いたら、1664だと言うから、「それにして」とその場を何とかやり過ごした。

 出てきたのは瓶ビールだった。

 それまで、”Un demi, s’il vous plaît ”に呼応して出てきたのは、グラスに入ったビールだったんだけど、この店で出てきたのは瓶ビール。

 そこでようやく気付いた、un demi ってのは生ビールを注文するときに使う言葉らしい。pression は生ビールの謂であるのか。対して bière と言えば瓶入りを指すらしい。

 にしても、「demi 半分」って何だろ。グラスには25clと書かれた線が入っていることが多かった。1パイントが 1/2L程度。その半分ってことなんだろうかね。

 この推量が当たっているのかどうか未だ確信は持てないでいるが、ともかく、un demi は、さしずめ「ナマチュー」 ってところかと、取り敢えず自分で納得した。

 鉄道の切符一枚満足に買えず窓口で大汗をかいていた頃のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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